執行役員の鬼頭です。最近私は海外のAI・マーケティング系の情報を追うのが習慣になっていて、このブログでは現場で感じたことを不定期に書いています。
今回は、最近見かけたあるトピックがきっかけで、普段はデジタル広告の運用やデータマーケティングの支援をしている我々の仕事について少しだけ真剣に考えたことを書いてみます。
「今後5年で価値あるAIスキルは何か」
海外のフォーラムに、そういう問いが流れていました。世界中の人間がああでもないこうでもないと言い合っている。
意見はだいたい4つに収束していました。プロンプトエンジニアリング、AIシステム設計、データパイプライン、AI×ドメイン専門知識。
読みながら、自分の仕事に置き換えて考えていました。
運用型広告は、AIに何を奪われるのか
弊社の主たる売上は運用型広告です。Google広告、Meta広告、Amazon広告——クライアントの予算を預かり、成果を出す。それが仕事の中心です。
正直に言います。この仕事の多くは、すでにAIに侵食されています。
入札の最適化はとっくに機械学習が担っています。クリエイティブの生成も、レポートの作成も、AIが得意とする領域に次々と入ってきています。PMAXもASCも、「人間が細かく設定する」より「AIに任せる」方向に設計されています。
5年後、「広告を回す」という作業そのものの価値は、今より確実に下がっています。
では何が残るのか——AI×ドメイン専門知識という答え
最も共感した意見は、「AI×ドメイン専門知識」でした。
ツールは誰でも使えるようになります。でも、そのツールをどの文脈で、何のために使うかを判断できる人間は、そう簡単には増えません。
広告運用で言えば、CPAが下がった理由を正しく読む力。数字の背景にある顧客の購買行動を想像する力。クライアントのビジネスモデルを理解した上で、KPIの設計から入れる力。
AIが「答え」を出しても、「それが正しいかどうか」を判断するのは人間です。その判断の質は、広告運用の現場で何年も数字と向き合ってきた経験に依存しています。
AIは脳を持ちました。でも、経験は持っていません。
コンテキストエンジニアリングという考え方
もうひとつ注目されていたのが、コンテキストエンジニアリングという概念です。プロンプトを磨くより、AIに与える文脈を設計する力の方が重要になる、という話です。
これは広告運用にそのまま当てはまります。
クライアントのビジネス情報、過去の施策の経緯、業界の季節性、競合の動向——これらを適切にAIに渡せる人間が、良いアウトプットを引き出せます。弊社がBigQueryやGA4との連携を進めているのも、突き詰めればこの「AIに渡すデータの質と構造」を整えるためです。
クライアントへの伴走という意味でも、ここは差別化になります。「広告を代わりに回す」から「AIを使った意思決定の仕組みを一緒に作る」へ。そこに向かうための技術的な下地は、少しずつ積み上がってきています。
数字で見ると、話は変わる
楽観的なことを書いてきましたが、ここで少し冷水を浴びせておきます。
先日、Anthropicが「労働市場へのAIの影響」という研究レポートを発表しました。内容は穏やかではありません。
コンピューター・数学系の職種では、AIが理論上94%のタスクをこなせる状態にあります。現在の実際の使用率は33%にとどまっていますが、研究者たちはこのギャップが埋まっていくのは時間の問題だと見ています。
より直接的な数字もあります。2022年以降、AI代替リスクの高い職種での採用数が14%減少しています。解雇ではなく、採用の入口が絞られている。若い世代ほどその影響を受けています。
研究者たちはこのシナリオに名前をつけました。「ホワイトカラーの大不況」。2008年のリーマンショック時に失業率が5%から10%に倍増したように、AI露出度の高い職種でも同様の事態が起きうる、と。
運用型広告は、この「AI露出度の高い職種」に間違いなく含まれます。

メンバーのキャリアパスについて——正直なところ
ここが一番難しい話です。
「AIに仕事を奪われる」という言い方はあまり好きではありませんが、「今やっている作業の一部が5年後にはなくなっている」というのは事実として向き合う必要があります。
メンバーに「AIを使いこなせる広告運用者になってほしい」と言うのは簡単です。ただ、具体的に何を身につければいいかを示せなければ、それはただのお題目です。
今考えているのは、3つの軸です。
数字を読む力をもっと深くすること。レポートを作るのではなく、レポートの背景にある仮説を立てられること。
AIへの指示設計ができること。プロンプトの書き方というより、何をAIに任せて、何を自分で判断するかを切り分けられること。
クライアントのビジネスを理解すること。広告の外側——商品、顧客、競合、市場——を知っているほど、AIとの協働の質が上がります。
どれも、一朝一夕には身につきません。そしてこれらを会社として教えられるかというと、まだ正直なところ道半ばです。
最後に
フォーラムの中に、こんな意見もありました。「5年後は、スキルを売らなくても生きていける社会になっている」と。そうなればいいと思いつつ、たぶんそうはならないだろうとも思っています。
変わるのはスキルの中身です。広告を「回す」から、広告を「設計する」へ。AIを「使う」から、AIと「協働する」へ。
Anthropicのレポートが示す数字は厳しいですが、同時にこうも言えます。「実際の使用率はまだ33%」——つまり、変化の大半はこれからです。準備できている人間と、できていない人間の差が開くのも、これからです。
だから今年、少し急いでいます。