執行役員の鬼頭です。今回は運用者向けの情報でマニアックなのですが実際のキャンペーンデータをもとに、Meta広告のASC(Advantage+ Sales Campaign)とバリュールールについて書きます。
日本語の情報が少ないテーマです。正確には「少ない」というより、一人が書いたものをみんなが引用しているという状況です。海外の一次情報を直接当たりながら試したことを、できるだけそのまま書きます。
ASCとバリュールール、簡単におさらい
ASCは2025年にAdvantage+ Shopping CampaignからAdvantage+ Sales Campaignに改名されました。ECだけでなくリード獲得にも対応した、Metaのフルオートメーションキャンペーンです。ターゲティング、入札、配信面——これらをすべてMetaのAIに委ねる設計になっています。
そこに2025年6月、バリュールール(Value Rules)という機能が追加されました。
年齢・性別・地域・デバイス・プレースメントごとに入札を調整できる機能です。最大+1,000%から最大-90%まで設定でき、1キャンペーンに最大10ルールを設定できます。
ただし、Metaはこの機能の設定画面でこう警告しています。
「バリュールールを使用すると、全体的なコスト・パー・リザルトが増加する場合があります」
確認チェックボックスを押さないと先に進めない仕様です。つまりMetaが自ら「コストが上がるかもしれない」と言っているツールです。
実際に試した結果
あるリード獲得キャンペーンで、ASC+バリュールールを設定したキャンペーンと、通常キャンペーンを比較しました。
| ASC+バリュールール | 比較キャンペーン | |
|---|---|---|
| CPC(リンククリック) | ¥53 | ¥158 |
| CTR | 2.54% | 1.30% |
| リンククリック数 | 181 | 693 |
以下は上記データで参照した、自社広告でテスト運用した結果のキャプチャです。
CPCが約3分の1、CTRは約2倍です。
設定したのは入札下げルールです。コンバージョン質が低いと判断したセグメントの入札を下げました。入札を上げたわけではありません。
なぜ入札を下げるとCPCが下がるのか
直感に反しますが、仕組みを理解すると納得できます。
MetaのAIは常に「最もコンバージョンしやすいユーザー」に予算を使おうとしています。しかし何も指示しなければ、AIは質より量を優先することがあります——特にリード獲得系のキャンペーンでは、「とにかくフォームを送信させる」方向に最適化が向かいやすい。
バリュールールで低価値セグメントの入札を下げると、AIはそのセグメントへの配信を減らし、残ったセグメントに予算を自然に再配分します。結果として、オークション効率が上がり、CPCが下がるケースがあります。
海外の事例でも、入札下げルールの方が入札上げルールよりリスクが低く効果的という報告が多いです。AdBuddyの事例ではCPA-16%(Creditas Mexico)、Nest Commerceでは-47%という数字が出ています。
Jon Loomer(Meta広告の海外一次情報として最も引用される専門家)も2026年1月の分析でこう書いています。「入札を下げることでブラジルとメキシコのコンバージョン単価が$0.07〜$0.12まで下がった」と。
参照:https://www.jonloomer.com/value-rules/
Metaの警告はなぜ出るのか
「コストが上がる」という警告は嘘ではありません。
入札上げルールを設定した場合、特定セグメントに対してより高い入札をするため、そのセグメントのCPAは上がります。データなしで上げルールを乱用すると、コストが大幅に増えます。実際に設定内容を誤り、CPA+140%という失敗事例も報告されています。
警告は正しい。ただし、使い方によってまったく逆の結果になるというのが実感です。
Metaがこの機能を出したことそのものが興味深いと思っています。数年間、Metaはひたすら自動化を進め、手動コントロールを削ぎ落としてきました。バリュールールはその流れに逆行するように見えて、実は「AIに任せつつ、ビジネス側の価値観を入力する」という設計です。
バリュールール、使うときの注意点
データが先。感覚で入札を上げない。
どのセグメントが高価値かを実際のコンバージョンデータで確認してから設定します。「若い女性の方が買いそう」という仮説だけで動かすと高い授業料になります。
設定を変えると学習期間がリセットされる。
バリュールールを変更すると学習フェーズが再スタートします。変更は7〜14日間隔で行うのが基本です。
入札上げより入札下げから始める。
上げるより下げる方がリスクが低いです。低価値セグメントを絞ることで、AIの最適化がより高品質なセグメントに集中します。
ルールは3〜5個まで。
複雑にしすぎると何が効いているかわからなくなります。
最後に
CPCが¥158から¥53になったのは、入札を「上げた」からではなく「下げた」からです。Metaが警告を出す機能で、逆にコストが下がった。
これは「AIを信頼しながら、ビジネス側の文脈をどう渡すか」という問いへの一つの答えだと思っています。
ASCのブラックボックス感に不満を持ちながら使っている方は、バリュールールを試してみる価値はあります。ただし、データに基づいて、慎重に。
参照記事
Jon Loomer / Value Rules詳細分析:https://www.jonloomer.com/value-rules/
PPC Land / バリュールールのコスト影響分析:https://ppc.land/metas-value-rules-might-actually-cost-more-than-theyre-worth/
AdBuddy / Bid Multiplier事例:https://adbuddy.ai/meta-bid-multipliers-to-cut-cpa-and-aim-spend-at-high-value-segments/
1ClickReport / 実践ガイド:https://www.1clickreport.com/blog/meta-value-rules-2025-guide