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年収3000万円の価値!? GTMエンジニアが米国スタートアップで取り合いに

ペタビットマーケティング執行役員の鬼頭です。

先日、フォローしているbtrax CEOのBrandon K. Hillさんが「GTMエンジニア」について書いていました。読みながら、20年前のことを思い出しました。


最初にGTMをGoogle Tag Managerだと思った

正直に言うと、「GTMエンジニア」という言葉を見た瞬間、Google Tag Managerの専門家のことだと思いました。広告運用をやっていると、GTMといえば反射的にタグマネジャーが浮かびます。

違いました。Go-To-Market。市場参入戦略のGTMです。

なぜこれが気になったか。少し自分のキャリアの話をします。


20年前、僕はHTMLコーダーだった

この業界に入ったのは約20年前です。最初の仕事はHTMLのコーダーでした。

当時、「HTMLコーダー」という職種は実態としてはっきりしていました。デザイナーが作ったカンプをHTMLとCSSに変換する仕事です。コードを書くが、プログラマーではない。そういう立ち位置でした。

そのうち、その仕事の呼び方が「フロントエンドエンジニア」に変わっていきました。単なる呼び名の変化ではありませんでした。仕事の中身が変わったのです。

JavaScriptを使った動的な実装が増え、当時はそれを「Ajax」と呼んでいました。今はそんな言い方はしませんが、あの頃はAjaxという言葉が新しい技術の象徴でした。さらにjQueryが登場し、やがてReact.jsやNext.jsが出てきて、フロントエンドはもはや「実装」ではなく「開発」そのものになっていきました。

コーダーという職種は消えたわけではありません。でも、その仕事の意味と射程が大きく変わった。フロントエンドエンジニアというカテゴリの中に、より深く技術を突き詰める方向と、よりプロダクト全体に関わる方向という分岐が生まれました。

僕自身は、17年ほど前からデジタルマーケティングとフロントエンドエンジニアの兼業期間がありました。そしてここ10年はデジタルマーケティング専業になっています。あの頃の分岐で、僕はマーケティング側に進んだわけです。

「GTMエンジニア」という言葉を見て、あの頃と似たような分岐が、今また起きているように感じました。


ポケモンで言うとイーブイの進化に近い

イーブイは、与えるアイテムや育て方によって複数の方向に進化します。雷の石を使えばサンダース(電気タイプ)、炎の石ならブースター(炎タイプ)、水の石ならシャワーズ(水タイプ)。同じ出発点から、まったく異なる形になる。

HTMLコーダーから始まったキャリアパスも、同じでした。

技術を深く突き詰めた人はフルスタックエンジニアになりました。フロントもバックエンドも一人でこなす、いわば「開発の炎タイプ」です。マーケティングの方向に進んだ人は広告運用やデータ分析を武器にしたデジタルマーケターになりました。僕自身はこちらに来ました。そして今、3つ目の進化先が現れました。それがGTMエンジニアです。

営業でも、マーケターでも、エンジニアでもない。でもその全部を一人でやる。面白いのは、GTMエンジニアが求めるスキルセットが、フルスタックエンジニアとデジタルマーケターの両方を内包していることです。分岐したはずの進化先が、AIの登場によってここで合流している。


GTMエンジニアが実際に何をやるか

Brandon K. Hillさんの記事が詳しいので内容は譲りますが、一言で整理すると「Go-To-Market(市場参入)オペレーション全体を、AIを使って一人で設計・実行する人材」です。

具体的には、ICP(理想の顧客像)の設計、リードリストの自動構築、メール配信インフラの整備、CRMのアーキテクチャ設計、インバウンド・アウトバウンドの自動化、営業コールのAI分析——これらを複数のチームで回していた仕事を、AIツールを活用して一人でこなします。

以前はSDR(インサイドセールス)、RevOps(レベニューオペレーション)、グロースチームが分担していた領域です。ClayやApollo、Gong、SalesforceといったツールにClaude・ChatGPTのようなLLMが加わり、ツール間の「接着剤」となる作業が自動化できるようになったことで、一人でも回せる規模感になりました。


「コードをゴリゴリ書く必要はないかもしれない」という一文

Brandonさんの記事の中で、GTMエンジニアに求められる能力として「技術的思考力」についてこんな記述があります。

「コードをゴリゴリ書く必要はないかもしれないが、APIの仕組み、データの流れ、ワークフローの設計ができなければ話にならない。『Clayのテーブルを作れます』程度では全く足りない。システム全体をアーキテクチャとして設計する力が必要だ。」

読んで、正直ピンときました。

「ゴリゴリ書けるエンジニアではないが、APIの仕組みはわかる。データの流れも設計できる。ローコードツールなら手が動く」——これは、フロントエンドエンジニアとデジタルマーケターの兼業期間を経てきた人間の、わりとそのままの自画像です。

しかも気づいたことがあります。GTMエンジニアの仕事の一つに、リードを評価するためのタグ設置・管理があります。コンバージョンポイントの計測設計、イベントの発火条件の整理、サードパーティツールとの連携——これ、文字通りGoogle Tag Manager(GTM)を使う仕事です。

「GTMエンジニアはGoogle Tag ManagerエンジニアではなかったはずなのにGTMを使う」。オチがついてしまいました。

もう少し真面目に言うと、フロントエンド出身でデジタルマーケティングに軸足を移してきたような人材は、AIのアシストを受けながらAPIを扱うことへの抵抗が低く、ノーコードではないがローコード程度なら十分に手が届き、タグマネジメントや計測設計を実務でこなしてきたバックグラウンドを持っています。これはGTMエンジニアという役割と、かなり近い位置にあるスキルセットです。

「完全なエンジニア」でも「純粋な営業・マーケター」でもない中間地帯にいた人間が、AIの登場によって急に需要の中心に来た——そういう時代の変わり目が、今だと思っています。


求人票を見ると、給与の現実が見えてくる

試しに海外の求人を見てみました。

例えばVercelのGTMエンジニア求人(Vercel Careers)。サンフランシスコ拠点のOTEレンジは$180,000〜$310,000です。日本円で約2,700万〜4,600万円。求められるスキルは「Next.jsアプリを本番環境で出荷した経験」「フルスタック開発4年以上」「AIモデルとAPIの実装経験」。

OpenAIの類似ポジション(GTM Innovation Engineer)でも求められるスキルは「PythonまたはJavaScript/TypeScriptで本番レベルのコードが書ける」「Salesforce、Marketo等のGTMプラットフォームの経験」「OpenAI・Cursor・n8nなどAI自動化ツールへの精通」です。

Glassdoorの集計(2026年2月時点)では、GTMエンジニアの米国平均年収は$182,412、上位25%は$250,865以上。調査対象1,000件の求人分析では中央値$127,500、トップはVercel $252,000、OpenAI $250,000という数字が出ています。

企業 年収目安(USD) 主な必須スキル
Vercel $180,000〜$310,000 Next.js、フルスタック開発、AI API
OpenAI 〜$250,000 Python/JS、Salesforce、LLM自動化
Clay 〜$175,000 CRM、SQL、ワークフロー設計
米国市場全体(中央値) $127,500

日本円換算で1,900万〜4,600万円。今の日本の市場では、まずあり得ない水準です。

LinkedIn上の求人数は2025年半ばの1,400件から2026年1月には3,000件超に増加。ZoomInfoのデータでは2年連続で前年比2倍ペースで需要が拡大しています。供給が追いついていないため、希少性がそのまま報酬に反映されている状況です。


これは日本の広告業界と無関係ではない

BtoB領域のクライアントを持つ方はイメージしやすいと思いますが、GTMエンジニアが担う仕事の多くは、日本でも「マーケティング部門とセールス部門の間に落ちている仕事」として長らく放置されてきた領域です。

リード獲得はできているが、その後のナーチャリングが属人的。CRMは入れたが、誰も使いこなしていない。広告のコンバージョンデータが営業側に渡っていない——こういう課題を抱えているクライアントは少なくありません。

GTMエンジニアという職種は、その「落ちている仕事」を技術とAIで拾い上げる役割です。アメリカではすでに専門職として確立しつつあり、日本でも品川・港区のBtoB SaaSスタートアップを中心に少しずつ認知が広がっているようです。

ただ現時点では、まだほとんど「概念の輸入」段階です。


最後に

20年前、「HTMLコーダー」が「フロントエンドエンジニア」に変わったとき、職種名が変わっただけでなく、できることとできない人の差が劇的に広がりました。

GTMエンジニアをめぐる動きも、おそらく同じ構造です。営業・マーケ・エンジニアリングの境界線上に立てる人が、AIを使って10人分の仕事をこなす時代が来ている。それを「脅威」として見るか「機会」として見るかは、結局のところ自分がどの側に立つかによります。

そしてGTMエンジニアは、Google Tag Managerを使いこなす人でもありました。意外なところで話がつながるものです。

弊社としても、この動きを座って眺めている気はありません。

参照:Brandon K. Hill(btrax CEO)XポストBloomberry「I analyzed 1000 GTM Engineering jobs」Vercel GTM Engineer 求人Glassdoor GTM Engineer Salary(2026年2月)